釣り人覚え帳しゅんの味［春］

釣り人覚え帳－しゅんの味［春］

マダイ
タイは魚の王者。釣り味もいいが、どんな食べ方をしてもいいのがまたうれしい。とくに春の「乗っ込みダイ」は五月がしゅん。産卵のために水深五十㍍ぐらいの浅い岩礁帯に突っかけてくる。サクラダイともいわれているゆえんで、腹にマコという黄色い卵を抱いており、脂もたっぷり乗っている。

◆ 松皮づくりの刺し身

刺し身にするなら「松皮づくり」がいいだろう。これは皮を残したまま作るからで「鹿ノ子づくり」ともあわれる。ウロコをとりわけていねいに取る。ダイコンを輪切りにした切り口で尾から頭に向けてこすってやるときれいになる。三枚におろし薄塩をし、サクのままで皮を上にしてザルの上に置く。その上からふきんをかぶせ、上からふっとうしたお湯をサッとかける。皮の部分がきれいに湯引きされたのを、そのまま切って盛りつける。この皮が松の木の肌や鹿ノ子模様に似ているところからつけられた呼び名である。
だが絶品はカブト蒸しだろう。外房の大原にいる中井力男さんは、昭和のはじめに紀州の雑賀崎から移住してきた中井一族のうちでもタイ釣りの手足れである。この人に教わった料理法だ。

◆ いかすカブト蒸し

まず深みのある大きな皿にダシコンブを一枚敷く。タイの頭はタテふたつ割りにするが、やはり1.5㌔以上の中、大ダイがいい。小さいものは一尾そのままでやる。このカブトに軽く塩をして、コンブの上に置く。一方、タマネギをタテ四つ割りにして皿の四隅に。
これを皿のまま蒸し器に入れる。このとき、すかさず一ぱいのお酒をカブトにふりかける。蒸しあげる途中で二度ほど同量のお酒をかけてやる。タマネギが魚の生ぐささをみごとに消してくれるし、タマネギそのものもうまい。
別にタレを用意する。ユズかダイダイを割ってしぼり、これにしょうゆ、七色または一味とうがらしを入れて、このタレにほぐしたタイの身をつけて食べる。目の玉、頬のところがとりわけ美味である。

(Up to Table of Contents)

メバル
この魚が釣れ出すと、もう春である。
「春告魚」とはメバルのことを指すのだが、俗に「目晴」「目張」と書くように、大きくて黒い目がひときわ印象的である。しゅんは春なのだが、春もまだ浅い二月の下旬から釣れだすところが多い。
ふつうメバルといえば、浅いところにいるクルメバルを差すようだが、やや深い深いところにいるアカメバルを「沖メバル」と呼んで区別している。味は断然クロメバルが上だ。

◆ エラぶたのトゲに注意

釣りたての新鮮なもので大型は当然、刺し身でいける。ただ、クロメバルはさほど大きくないため料理するのに手間がかかる。ごく一般的には砂糖にしょうゆ、お酒、ミリンを少々加えて甘辛く煮つけるようだ。どこでも釣れるポピュラーな魚で、クセのないのがいい。
エラぶたにトゲがあり、これに刺さると痛いから、釣りあげたり料理にしたりするときには、くれぐれも注意することが大切である。
このエラぶたをあけてエラを引きずり出すようにするといい。ワタもエラにくっついて一緒に出てくるからで、いちいち腹を割く手間がはぶけて便利だ。煮るときに包丁で二筋ほど切り目を入れてやると味がよくしみていいだろう。

◆ ダイコンおろしで煮る

単純に煮るのは曲がなさすぎるという向きに、おろし煮をご紹介しよう。これは魚料理屋さんなどでよく出る煮魚である。ウロコを取り、ワタを抜いたメバルを三つか四つにストンと筒切りにする。水気をよくふき取ってから軽く下塩をして三十分ほど置く。一方、ダイコンおろしをなるたけ多めに作り、ふきんで軽くしぼって水気を取るようにする。
次にメバルに小麦粉をつけて油に入れて揚げる。コンブのダシにしょうゆ、ミリンとお酒を加えて煮たたせ、これに揚げたてのメバルを入れてサッと煮あげ、さきのダイコンおろしを入れてもう一度煮たものだ。このとき、あまり長く煮ず、サッとひと吹きしたら火を止めるのがコツなのである。

(Up to Table of Contents)

ヤマベ
関東から西のほうの川にほとんどどこにでもいる雑魚で、とりわけ水温の高い中、下流域に多くすんでいる。正確にはオイカワというが、関東ではヤマベ。ただし、北海道や東北ではヤマメのことをヤマベと呼ぶからややこしい。
関西ではハエ、シラハエとかハス。四国ではズバリ、ジャコという。そのほか体が白っぽい銀色であることからジンケン、ブリキなど、どうも安っぽい名が多いようだ。

◆ メスがおいしい

非常に釣りやすく子供でも川遊びのようにして釣っている。メスはいつも白銀色で変化しないが、オスは夏になると体に青みが出て口もとが黒くなり、ヒレが赤くなって婚姻色を出す。
オスよりもメスのほうがおいしい魚とされている。あまり大きくはならず二十㌢あるものはきわめてまれだ。骨が硬いから食べずらいのも欠点だが、塩焼きで食べてもいいし、から揚げにしたものを二度揚げして甘露煮にするとおいしく食べられるだろう。

◆ 甘露煮の作り方

まず塩水で洗ってからウロコをきれいに取る。水洗いして水気を取り、金ぐしに刺して強めの遠火で素焼きにする。一方、煮焦げないようになべに竹の皮を敷いて、焼いたヤマベを並べ、番茶を注ぎながらよく煮る。番茶は骨まで軟らかくする効果があるのだ。やや濃いめのものがいい。こうして水をたしながら一時間ほどよく煮る。
次にこの煮汁を捨て、あらためて砂糖にしょうゆ、お酒を加えたダシでおとしぶたをしてさらに二、三時間、弱火でじっくりと煮こむのである。煮ている途中、はじなどで突つくと形がこわれるので注意。また弱火で煮つまらないようによく気をつけて。煮あがったら火を止めて、味がよくしみ通るようにそのままさましておくことも大切。最後には砂糖か水アメで照りをつけて仕上げるのがコツで、なかなか手間がかかるが、ヤマベのいちばんおいしい食べ方だという人もいる。
釣れても捨てる人がいるが、それなら釣らないこと。川へ帰してやるようにしたい。

(Up to Table of Contents)

サヨリ
「あいつはサヨリのようなヤツだ」と漁師たちがよくいう。ボラと同じように腹を割くと内側にまっ黒い膜があるからで、腹黒い、という意味だ。あまり上品な表現とはいえないが、いい得て妙である。
冬の終わりごろから春先にかけて、漁港近くの防波堤などでよく釣れる。冷凍アミの寄せえさを使ってサヨリを集め、細身の竿と仕掛けで釣りあげる。ごく細いものを「エンピツ」というが、この季節になると網漁でもよく獲れ、魚屋さんの店頭にも出まわりはじめる。

◆ 糸づくりがいちばん

細いものを「エンピツ」というが、この季節になると網漁でもよく獲れ、魚屋さてサヨリのおいしい食べ方だが、これはもう糸づくりがいちばんだ。三枚におろして腹の黒い部分をそぎ取り、斜めに細く切って刺し身をつくる。おろしショウガとしょうゆで食べると甘みがあっておいしい。
また三枚におろしたものをクルックルッと巻いてようじで留めるか、結ぶかして椀ダネにする。塩をごく少々入れて熱湯にサッとくぐらせ、冷水でさましてやる。コンブダシのすまし汁を作ってからサヨリを入れるのである。このほか天ぷらや塩焼きにしてもおいしいし、もちろんフライにもなる。

◆ 手づくりの干物に

海に近いみやげものの店でよく見かける干物もおいしい。だがそれよりも、自分で釣った新鮮なものを自分で干物にするのはいいものだ。
水気をよくふき軽く塩をして天日に干すだけである。風通しがよくて日当たりのいいところで干してやるといい。これをあぶって食べる。あっさりした上品な味の魚だが、鮮度が落ちやすいのが欠点だ。なるべく早く料理することが大切で、ことに内蔵は早く取っしまおう。
なにしろ魚体は細いから料理しづらい魚なのである。あわてずにゆっくりと料理することだ。キスやメゴチなど小魚を料理するときにも必要だから、短めの小出刃を用意し、これでやるといいだろう。釣るにしろ食べるにしろ春先のごく短い期間がサヨリのしゅんだ。

(Up to Table of Contents)

シロギス
メバルとともに春告魚である。砂浜からの投げ釣りでも結構楽しい釣魚だし、型もスマートで色もきれいだ。白銀色に淡いピンクがうっすらとにじんで「海のアユ」の異名にふさわしい。いちばんポピュラーな釣りものといっていいだろう。
砂浜に竿を立てて、のんびり昼寝をしながらという人も多い。

◆ 塩焼きと糸づくり

もちろん数を釣るなら船釣りに限る。関東では東京湾、相模湾一帯が、そして関西なら播磨灘から大阪湾にかけてと瀬戸内海などがおもな釣り場だ。
この魚はやはり塩焼きがうまい。ウロコとワタをていねいに取って塩をしてから焼く。このとき、水洗いした水気をよくふき取っておくことだ。サヨリと同じように糸づくりにするとこれまたいかす。三枚におろしたものを斜めに包丁を入れて細かく切る。おろしショウガにしょうゆで食べるといい。また三枚におろしたものを結んで椀ねたにするのも。いろいろな食べ方ができるのもこの魚の魅力。
ただ、秋の落ちギスになると型も比較的大きいから刺し身も作りやすいし、料理もたやすいのだが、春は俗にピンギスという小さいものが多い。
こういうのは料理に手間がかかるのも事実。小さいものはワカサギのようにフライにする方法もある。

◆ 天ぷらに人気

またキスの天ぷらは人気があり、淡白なところが好まれているようだ。この場合は背開きにしてから中骨を取り、さらに腹の部分の小骨のところをそぎ取ってやるといい。
いまはもうその名を聞かなくなってから久しいアオギスは、江戸前の脚立釣りとして有名だった。ほとんど全国的に絶滅したとされており、数年前に四国は徳島県の吉野川の川じりで姿を見たという例があるくらいだ。これを天然記念物にしようと、関西の釣り専門雑誌「釣りサンデー」の小西和人さんが提唱しておられるが、もしシロギスと違ったものが釣れたら、すぐに最寄りの水産試験場に届け出てほしいものである。

(Up to Table of Contents)

ヤリイカ
やりの穂先のようにスマートで細いところからそう呼ぶのだろう。マイカというスルメイカはふとっている。ヤリはもっと細く、塩辛に使うワタが少ないからすぐに見分けがつく。

◆ イカヅノでひっかける

冬の終わりごろから春にかけてよく釣れるイカだが、イカはタコと同様に釣った、釣れたとはいわず「乗った」という。それは釣り具が特別のものだからで、イカヅノという仕掛けにイカをひっかけるからだ。昔は船に鉛に赤や青の糸を巻きつけたり、竹の軸を使ったりしていたけれど、釣り具の進歩はめざましい。ちょうどボールペンの軸を細くしたもので、赤や青、ピンク、オレンジ、白透明色となかなかにカラフル。これに針の山がくっついていて、海中でブラブラ揺れると、イカが抱きついてくるという仕組み。ヤリに限らずマイカ釣りにも使っているが、こんなオモチャみたいなものになぜイカが興味を示すのか、ちょっとおかしい。

◆ イカソーメンが有名

イカはやっぱり新鮮さがいちばん。「イカのチョウチン」といい、指ではじくと斑点が明滅するような生活反応が現れるから、とは「水神ごめん蟹ごめん」を書いた二階堂清風さんの話しだ。
獲りたてのイカを海水で洗ってそのままかぶりつくと絶妙の甘さがある。氷と海水の中に入れて持ち帰り、皮を取りきれいな白身にして細長く切る。ソウメンのように作るわけで、これが有名なイカゾウメンだ。塩辛を作るなら一緒にに釣れるマイカの十分なワタを借用する。ワタをつぶし塩を入れる。
競馬場のおけら街道や縁日の屋台でよく見かける焼きイカはしょうゆのにおいでごま化されるが、冷凍ものと獲れたてでは味の差は格段。焼くときに、あまり強く長く焼かないほうがいい。サッと焼きあげることだ。焼いても煮ても、イカやタコは長すぎると身が硬くなってしまう欠点を持っているからである。サッと焼いてしょうゆをかけ、輪切りで食べよう。

(Up to Table of Contents)

イシモチ
石持と書いたり石首魚という字をあてたりする。頭に「耳石」という丸い石を持っているからである。関西ではイシモチとはいわず「グチ」と呼んでいる。釣りあげられたイシモチはグウグウと世にも哀れな声を出して鳴く。この声があたかもブツブツと愚痴っているように聞こえるところから、グチと呼ぶようになったのではあるまいか。

妄執のなにやら哀し石首魚のこえ　保

イシモシなんて、とバカにする向きもあるようだが、釣りたてのものをウロコとワタを取って三枚におろす。包丁を横に寝かせるようにして薄くそぎ取るのである。いわゆるそぎ身で、薄づくりにするのだ。とくに美味とはいえないまでも、クセがないのがいい。

◆ 新鮮なうちが勝負

モミジおろしにポン酢、しょうゆのタレにつけてもいいし、単純にワサビじょうゆで食べてもいい。ただ新しいうちに限る。日を置くと身がやわらかくなるからである。イシモチはまたシログチともいわれ、カマボコの好材料でもある。仲間に「ニベ」というのがいるが、ちょっと判別がつきにくいくらいよく似ている。尾の形がニベは三角形にとがっており、イシモチはまっすぐになっている。イシモチと混同して呼ぶところが多い。
昔からイシモチは煮つけにする人が多かったようである。白身であっさりしているから甘辛く煮つけるとよりおいしかったのだろう。最近では塩焼きにする人もいるが、どちらかといえば煮たほうがうまい魚である。カサゴを煮るときのようにあまり濃いめにせず、ちょっと水を加えてソフトに煮るように心掛けよう。

◆ 甘酢あんかけも

ただ煮こごりなどを作ろうとする場合には、カタクリ粉を少々加えてやり、容器に入れてよくさましてから冷蔵庫に入れてやるといいだろう。三枚におろしたものをフライにしたり、小さめのものは一尾まるごとから揚げに。二度揚げしてから、南蛮漬けにしてもおいしいし、甘酢あんをかけると、骨まで全部食べられる。

(Up to Table of Contents)

カサゴ
いく通りも呼び名のある魚。ふつうはカサゴというが、関西ではガシラ、九州ではアラカブという。ガシラは「頭」に通じるのであろう。
ほかにガガニとかハチメ、南伊豆ではボウチョウカサゴとも。呼び名はいろいろだが、くせのない白身で身がほぐれやすく、シコッとしていて食べやすい。

◆ 祝い膳に武者煮

関東ではカサゴの「武者煮」といって祝い膳に用いたという。砂糖としょうゆにお酒、ミリンを少々加えて、おとしぶたをして甘辛煮つけるのだ。あまり大きいものは二つに切るが、だいたい丸ごと尾頭つきで煮る。皿に盛りつけたその格好がヨロイ武者のようで、なかなかいい。武者煮の由来であろう。
もちろん刺し身でいけるが、やや身が硬いからやはりそぎ身の薄づくりがいいのだ。カサゴは種類が多く、伊豆や外房でいうところのカンコというのは大カサゴだ。これはやや大味に過ぎるから刺し身には向かない。なべものにしたほうがいいようである。また、オニカサゴというやや緋色に近い種類は、オコゼと同じく背ビレが鋭くて刺されると猛烈に痛いから、料理するときや釣りあげたときにはとりわけ用心が大切。この魚はやや深い所にいるが、カンコと違って味は抜群である。

◆ から揚げと寄せなべ

カサゴは焼きものには向かない。煮る以外だと、から揚げがいいだろう。小さいものはそのままでもいいけれど、いったん三枚におろしてから身と中落ちを別々に熱い油で揚げるといい。ポン酢のタレにつけて食べると風味満点である。
ちょっと変わった食べ方としては魚すき、つまり魚のすきやき風にするといいだろう。
いったん湯引きしておく。他に薄口しょうゆとミリンでダシを作っておき、コンブのダシを加えて煮る。エビやイカ、ハマグリ、トウフ、シイタケなどを入れたいわば寄せなべである。白ネギ、ミツバなども加えるといい。関西でいう沖すきの要領である。

(Up to Table of Contents)

オコゼ
実に醜怪きわまりない顔をしているが、食べてみると顔の不細工さなど忘れてしまうからおかしい。外房などでツチオコゼと呼ぶ肌がアンコウのようにぬるぬるしたものがとりわけおいしい。
ただオコゼの背ビレはハチのひと刺しより強烈で、刺されたら手がはれるし紫色になるほど。たとえ死んだものでも猛烈に痛い。料理するときはくれぐれも注意することが大切である。

◆ 薄づくりの刺し身に

まっ白い白身でシコッとしまっているから、刺し身にすると最高だ。薄づくりにするのがよく、包丁を斜めに寝かせるようにして身をそぎ取るようにしてやる。これにはポン酢のタレにアサツキ、一味とうがらしがよく合う。
そして、刺し身を取ったあとの中落ちや頭の部分を熱い油でから揚げにするといい。パリッパリッとしていて、骨ごと食べられる。揚げたてのものを、モミジおろしを入れたタレにジュッとつけて食べるとたいへんうまい。むろん、食塩だけで食べるのもいいだろう。

◆ 赤出し汁に入れる

また、赤出しみそを使ったみそ汁に入れて食べるのは絶品である。ブツ切りにしたものを煮立たせてみそ汁にするのだが、あくまでも赤出しみそを使うのがポイントだ。アサツキかミツバを添えるといい。
甘辛く煮つけてもおいしい魚である。カサゴと同じ要領で煮るのだが、砂糖にしょうゆとミリン、お酒を少々加え、おとしぶたをして煮る。身は硬めなので骨ばなれもよく、食べやすいのがいい。
このほか、刺し身を取った残りの中落ちや頭をすまし汁の椀ダネにすると上品な味がする。いったん薄塩をしてからサッと湯引きをする。コンブとカツオ節でダシをとったすまし汁に、これを入れてお椀にするわけ。なまのままうしお汁仕立てにするとアクが出て汁がにごるから湯引きする。熱湯にサッとくぐらせるだけでいい。アサツキとかミツバそれにユズの皮をごく少々入れるだけ。

(Up to Table of Contents)

ヤマメ
ヤマブキヤマメという。五月に山吹が黄色い花をつけるころが、ヤマメの釣期である。三月はもう渓流釣りが解禁で、ヤマメも、その仲間アマゴ（アメゴと呼ぶ地方もある）そしてイワナも釣ってよろしいことになっている。
だが雪代の残っている渓流では、まだ水が冷たくてヤマメは深場に潜んでいる。体も「サビ」と呼ぶ黒ずんだ色がついていて、トレードマークの楕円のしるしが、まだきれいに出ていない。それが、水温があがって、急流に出てエサを活発に追うようになると、サビが取れてきれいになる。この時期が山吹の咲くころというわけだ。食べておいしいのもこのころからである。一般には塩焼きである。ワタを抜いてから塩水でサッと洗ってやるといい。おどりぐしを打ってからヒレや尾に化粧塩をして焼くのである。

◆ 渓流でのみその石焼き

渓流でたき火をしながら、山にある木の枝や竹などで即製のくしを作り、たき火のまわりに刺して焼くと野趣もあり、とりわけおいしいものである。釣り人ならではの楽しみであろう。
またこうした方法で塩を使わずに素焼きにしてから、みそに包んで石焼きにするのも風味のある食べ方。これは最初に大きくて平らな石を選び、その石を中心にたき火をする。だいたい二時間ほどしたらたき火を払いのけて、石の上にみそにくるんだヤマメを置いて焼きあげるものだ。渓流にはフキが多く、あまりトウのたっていないきれいな葉を選んでから、釣りたての魚のウロコとワタをとってくるみ、たき火のまわりで焼いて食べるのもうまい。砂焼きといって、まわりの熱した砂の上で焼くという方法もあるようだ。

◆ 天ぷらや甘露煮も

このほか天ぷらやフライにするのもいいし、小さいものは甘露煮にも向いている。どこの渓流でも放流サイズを決めているが、十五㌢未満のものは、たとえ初物でも再放流してやるのが渓流釣り師としてのマナーであることも忘れてはならないことのひとつである。

(Up to Table of Contents)

ムギイカ
五月の下旬の「麦秋」がしゅんである。しかし、ところによっては三月ごろから釣れはじめるところもある。ムギイカとは俗称で、ほんとうはマイカ（スルメイカ）の子供のことだ。
ムギの穂が出はじめるころに釣れるところからこう呼ぶが、関東地方だけだろうか。
この季節には、マダイが産卵のために浅場へ乗っ込んでくるが、ムギイカの生きたものを泳がせて釣る食わせ釣りは豪快。エビでタイではなく、イカタイ、なのである。タイが飛びつくほどおいしいのだ。身はやわらかくて、甘い。煮ても焼いてもいいし、そのまま細い糸づくりにしてイカゾウメンにする手もある。

◆ イカメシはこうして

なによりも圧巻はこのイカを材料にしたイカメシであろう。まず、前夜に米をよく洗ってザルにあげておく。二十㌢ほどのイカを選び、ワタや骨、スミ袋を取り除いてきれいに洗う。
このイカの胴に洗米を詰める。このとき、あまりたくさん詰めず六分目ぐらいにしておく。米を詰めたあとはようじで縫って留めておく。一方、大きめの深いなべにダシを作る。ごく少量の水にしょうゆ、ミリン、お酒を加えてやる。

◆ 弱火でじっくり煮る

火にかける前にイカを並べ、おとしぶたをしてから弱火でじっくりと煮こむのだ。一般にイカは焼きすぎたり、煮すぎたりすると身が硬くなるという欠点を持っている。しかし、そこはよくしたもので、このムギイカは元来がやわらかいせいか、少々煮込んでも硬くなる心配はまったくない。かなり時間がかかる料理だが、米を多く入れすぎると、ご飯になってふくらみ、留めた口がはじけてしまうから注意する。
手っとり早くやりたい向きには、コンブのダシとしょうゆでまずご飯を作る。やや硬めにしておくのがコツで、このご飯をイカに詰めてサッと煮あげるのである。また最初に五目メシを作ってイカメシにする土地もあるし、ご飯を詰めて焼き、しょうゆをつけて食べるところもある。

(Up to Table of Contents)

メゴチ
「ネズッポ」とは、うまくいったものである。江戸前では昔からメゴチのことをそう呼んだ。
もっともネズッポはメゴチとやや違っていてごく小さいものだという説もあるが、いまはそう呼ぶ人も少なくなった。まさしくネズミのような顔をしているし、色も黒く体つきもよく似ている。

◆ 天ぷらがいちばん

大阪ではテンコチとも呼ぶ。また関西ではガッチョとも。体全体がぬるぬるしており、へん平な頭には二本のトゲが出ている。見るからにまずそうな魚で、気味悪い。釣りあげるときに新聞紙を切ったものでつかむといい。メゴチバサミという道具まで釣り具店で売っているくらい。このぬめりは大変なものだ。それだけに料理のしずらい魚である。春、シロギス釣りなどの仕掛けに邪魔者としてかかってくるが、これがまた体型や体色に似合わず白身でおいしいときているからファンも案外多いのだ。
ズバリ、天ぷらが一番である。ただ料理する方法が一風変わっている。まず頭をストンと切り落としてワタを抜く。これに塩をたっぷりかけてもみしだくようにしてつかみ洗いするときれいにぬめりが取れよう。さてこれをタテに包丁を入れて尾の部分だけ残し、ちょうど松葉のような形にしてから中骨を取る。長い尾をつまんで小麦粉をつけ、天ぷらに揚げる。
シロギスのほうは同じ白身でも身が軟らかくてベトつくが、メゴチはシコッとして実にいい味。天ぷら屋でもメゴチばかり注文する食通もいるほど。

◆ 甘辛煮付けも

また頭を落としたメゴチを塩洗いしてから砂糖にしょうゆ、お酒を加えて甘辛くにつけるとこれまた美味だ。
天ぷらにするように下ごしらえしたものをパン粉につけてフライにしてもいい。このほかトウフやネギを入れてみそ汁にする方法もある。よく釣り船の上で作ってくれるみそ汁に入っているが、メゴチなどと嫌わずにいろいろ工夫して食べてみると、その意外なうまさにびっくりするだろう。

(Up to Table of Contents)

舌ビラメ
シロギスやイシモチの投げ釣りをしているとよくかかってくるのが舌ビラメ。俗に「ウシノシタ」というが、ベロッとして牛の舌のような格好をしているところから、そういう呼び名がついたのだろう。九州の大分では「靴底」と呼ぶが、魚辞典にも「靴底魚」とあるのがおかしい。そういえばよく似ている。
本来は釣りの対象魚ではない。底引き網漁でよく獲れるから、漁港の魚屋さんなどをのぞいてみるといい。結構、安い値段で手に入るからうれしくなってしまう。フランス料理によく出てくる「舌ビラメのムニエル」はこの魚のことである。

◆ ムニエルとフライ

料理の仕方はすこぶる簡単だ。まず腹の白いところを包丁の刃を立てるようにして、ていねいにこそぎ取る。次に腹側の首のつけ根のところに包丁を入れ、表皮のところまで切り込む。この”首の皮”一枚を残しておくのがコツである。
切り込んだところを中心に、頭のほうをつかんで折りまげるようにし、尾のほうに強く引っぱるといい。メリメリッという音がして黒または赤っぽい表皮がツルリときれいに取れる。このとき、ワタも一緒に皮について取れてしまうから手っとり早い。皮の取れた肌はピンクもしくはまっ白でつややかだ。
これに軽く塩、コショウをする。フライパンにバター一片をのせて舌ビラメを入れ、ふたをして焼きあげる。身は薄く、あまり食べではないけれど、すこぶるあっさりしていて美味なのだ。
塩、コショウをしてから小麦粉を軽くつけて焼いてもいいし、ちょっと面倒だがカレイやヒラメのように五枚におろして、卵、小麦粉、パン粉をまぶして一口風のフライにするのがまたオツだ。ホワイトソースをかけるとさらにおいしいだろう。

◆ 干物は酒にぴったり

もっと手軽に食べたい人は、砂糖、しょうゆにお酒を少々加えてサッと煮つけることである。また、軽い下塩をしてから天日に干したものをあぶって食べると酒のさかなにぴったり合う。

(Up to Table of Contents)

イシナギ
魚屋さんで見かけることはまずあるまい。船で釣る大物魚としては極め付きの大魚で漢字では「石凪」と書く。
外房の勝浦というところには、昭和のはじめに紀州の雑賀崎から移り住んだ手足れの漁師たちがいることで有名だが、このうちのひとり故川壁安市さんは「八十八夜が来ると、イシナギが釣れるよ」とよくいっていた。八十八夜は、ふつう五月二日か三日である。ほぼ初夏に近い。

◆ 小さいものは刺し身

この魚はヤリンボと呼ぶヤリイカの生きたものを一匹掛けにした食わせ釣りであげる。平均二十㌔から六十㌔、ときには百㌔に近い超大物も出るから豪快だ。
タイ釣りをやっていると、このイシナギの五、六㌔ものがよくかかる。この程度の小さいものは結構うまい。釣りたてのは刺し身にするとやや硬いから、二日ほど置いて料理するといいだろう。「イシナギをたくさん食べると頭の毛が抜ける」というのも勝浦の伝説だ。これは脂が強すぎるからである。昔はイシナギの魚体はただのような安価にもかかわらず、肝臓だけは飛ぶような値段で売れた、という。ホルモン剤の材料にするとかで薬品業者が買いあさったそうだ。

◆ 照り焼きが合う

だから大きいものは、あまりたくさん食べないほうがいいだろう。こう書くと敬遠されがちだが、それはそれ、食べ方である。切り身にして、しょうゆにミリン、お酒を少々加えたタレを作り、この中に三日ほど漬けておく。冷蔵庫に保存しておくといいだろう。
これを網焼きにする。俗にいう照り焼きである。しゅんのイシナギはこうして食べるのがいちばんだ。
いまでは大きいものはほとんどカマボコの材料になるようだが、ぶつ切りにしてチリなべつまり水たきにしてもいい。トウフに白菜、シイタケ、エノキダケ、春菊などを入れ、ポン酢のタレで食べるといい。漁師たちは切り身にして塩焼きにするとうまいという。

(Up to Table of Contents)

サンノジ
伊豆七島の神津島にある漁港で異様な光景を目にした。ちょうど伊勢エビ漁から帰ってきた漁船が、エビを網からはずしている。眺めていると四十㌢から五十㌢もある大きなニザダイが五、六尾もかかっているのに無造作に港にあるドラム缶のゴミ捨てにポイと放り込んでいるではないか。

◆ レモンじめがいい

「もったいないねえ、食べないの？」と聞いたら「こんなもの島じゃだれも食わねえよ。いるなら持って行きな」という。むろん持ち帰りはしなかったが、その話しを真鶴半島にある福浦港の漁師にした。その人はちょうど船のイケスの中に三尾のニザダイを泳がせていたからである。
「そりゃもったいないねえ。サンノジはレモンじめにするとうまい魚だよ」という。
ネズミ色というかグレーの体色で尾のつけ根に黒い三本の筋が入っている。一般にニザダイと呼ぶが、釣り人の間ではこの三本筋からサンノジの名前で通っている魚だ。この魚は磯釣りでよくかかるが、へん平な魚体なので引き味はなかなかいい。ただ磯くさいのが欠点で、それほどおいしい魚とはいえない。

◆ くさみが抜ける

そこでレモンじめなるものを試食してみたのである。料理はまず三枚におろす。それを薄くそぎ取るいわゆる薄づくりにするのだ。一片一片ていねいになるたけ薄く取る。それを並べた上に、これまた薄いレモンの輪切りを一片ずつのっけて行く。一段終わるとさらにその上に積み重ねるようにしてゆくわけだ。
ちょうどレモンの輪切りをはさんだサンドイッチという格好である。二、三時間ほど冷蔵庫に入れたのを、しょうゆにおろしショウガで食べてみた。レモンがみごとに魚のくさみを抜いていた。イズスミでも食べる神津島で食べられないというのがちと解しかねたが、嫌われものの魚といわれながら、土地土地にはいろいろな創意工夫があるものと感心させられたのであった。切り身にしてフライにすると食べやすいし、砂糖にしょうゆ、お酒、ミリンのタレに漬けておいて焼いてもいいだろう。

(Up to Table of Contents)

このサイトに使用されている写真、イラスト、文章等（フリーまたは許可を得たアイコン、
素材等を除く）の著作権は全てつりなびに属します。無断での複製、転載、使用を禁止します。

このホームページのご意見ご質問はこちらまで
Copyright(C)1996-2002 TURIGURUME/TURI-NAVI All rights reserved.